「お母さんみたいになりたくない」って言ってた頃

朝ドラの名作「おしん」を見て記憶がよみがえる

「おしん」。日本ドラマ界の名作といっても過言ではない作品です。
とはいっても、1983年放送だったので、私はそのとき小学校2年生。
うっすらしか覚えてませんでした。

それが、今再放送しているのですね。
ちらっと見たら大変。おしんに見事にはまりました。

今の時代では作れないような描写も多く、
とはいえ、昔は米俵一俵のために売られた子どももいたのは事実。
そして、俳優さんたちの演技が素晴らしいのです。

そんな「おしん」を見ていたら、突き刺さるシーンがありました。
おしんの最愛のおばあちゃん、劇中では「ばんちゃん」と呼ばれていましたが、
おばあちゃんが、貧しい生活のなか、亡くなってゆくのです。
山形の冬、隙間風はいるどころでない掘立小屋みたいな家で、わらの上で死ぬのです。

貧しい小作の家に嫁にきて、苦労と家族を守るために生き、死んでいく。
「女というものは、そう生きる、そういうものだ」

ばんちゃんの死後、おしんがお母さんからばんちゃんの形見の50銭硬貨をもらいます。
そしておしんは思うのです。
「こんな風に生きたくない。死ぬときこんな金しか残らないような人生はいやだ」と。

昔ってそうだよね…じゃないんです!

私自身、おなじことを思って実際母に言ってしまったことがあるのです。

「お母さんみたいになりたくない」

それは、母もおしんとまではいかないが、似たような状況だったから。
母はもう亡き人ですが昭和22年生まれ。
この年代生まれの女性にしては珍しく、北海道大学に入り、大学院まで出ているのです。
当時としては、かなり学歴が高いほうです。
卒業後も女性が就職できる場は少なく、一度東京でアパレル会社に就職しますが納得はいってない。
自己実現がまったくできない。

結婚後、田舎の旭川の電気屋の嫁となり、バイト扱い。
祖父母には、母の価値がわからないのです。
子どもながら、母が鬱屈をためているのは感じてました。祖父母のことは私は大嫌いでした。
実は、この二人の死後、私はお葬式にも行ってません。

母が私たちのために我慢を重ねているのも知ってるし、
状況とか時代とかいろんなことが絡み合って、母が自分らしく生きられない、能力を生かすことができない
のを見て、まず、高校生くらいのとき、
「お母さんみたいなりたくないから、東京にいく」
って言ったのです。

母はショックだったでしょうね。

自分が望んでもない方向に人生が流れていく。
一番悔しいのは、自分自身なのですから。

しかも、私は同じことをまた言うのです。
それは大人になってから。30歳くらいだったかな。
今度は、別の意味です。

母が太って老け込んでしまったので、それが私はすごく嫌だったのです。
きれいにしてほしいから。

年をとっても、あきらめずにきれいな自分でいる。
それをしない母に「お母さんみたいなりたくない」っていうと、

「あんたいつも同じこと言うね」

覚えていたのです、母は。娘にこんなこと言われて、傷ついたのでしょう。

昔も今も、女の生きる悩みは変わっていない

母に対してひどい娘である一方、
ある意味では、母の教育が成功したとも言えます。

母は、「女性だからといってやりたいことをあきらめる人生はいけない。仕事はすべき。
そして好きな人と結婚してほしい」
と私たち子どもにメッセージを送っていました。

直接言葉で言われたのか、もう覚えていませんが、そのためか
私たち姉妹は常に仕事をし続けています。
働かない、とか、女だから我慢する、という思考はありません。
ですが、仕事が私を苦しめることもあります。
仕事をしなくてはいけない、と思っているから休むことに罪悪感があるのです。

女の苦しみって、いつの世もあるのですね。しかも根底は一緒。
昔は、自分の思い通りに生きられない、家族のために犠牲になる、という生き方。

今は?
仕事するのが当たり前にはなったけど、
自分の思い通りに生きられない、家族のために我慢する、

同じじゃないですか。

おしんの時代から何十年たっても、同じなんですよ。

むしろ、現代のほうが過酷かもしれない。
昔は、生き方がある意味狭められたぶん、選択肢も少なかった。
いまは、選択肢がありすぎるゆえに
仕事をするかしないか、結婚するかしないか、子どもがいるかどうか
細かく選ばなくてはいけない。
それって実は苦しくないですか?

しかも、仕事も、家庭も子育てもしていつまでも美しく…という無理難題が課せられて。
かえって、きつくなってませんか。

自分の思い通りに生きる、ってどういうことなのか?
すごくすごく難しい! 永遠の問い。

そのための一歩って、じつは健康な体だと、つくづく思います。
おしんって、とにかく体力がすごい。あれだけ運命にもみくちゃにされながらも
生き抜いていくことができたのは、健康資本があったからですよ。
体が悪くなったら、何もできなくなってしまいます。

母に感謝と謝罪をここに記します。
昔、あなたの気持ちを何も考えず、ひどいことを言ってしまい、ごめんなさい。
だけど、大切なことを教えてもらいました。

あなたからもらった、この体で生きていくのですから、
これからも大事に大事に、守っていきます。

体を整える、体さえ元気なら、心も強くなっていける。
そんなことを、教えられた「おしん」でした。やはり不朽の名作です。

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